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新 歪んだ愛の形[後編] [Page 12/12]
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12 : エピローグ
4月、東山小学校を卒業した正太は、公立の中学校に進学した。そして、今日はその入学式の日である。
初めての学生服にまだ慣れていないため、動作は少しぎこちないが、この日の正太はとても立派に見えた。
式が滞りなく終わり、教室での連絡事項、教科書配布が終了すると、新入生は下校となる。正太は大山と二人で校庭の桜に見入っていた。目に染み入るようなその鮮やかな色は、太陽の光を受けていっそう眩しく輝いていた。
「なあ正太、お前まだ竜太とつきあってんのか?」
正太の横に座っている大山が話しかけた。彼の場合、学生服を着るとぐっと大人っぽくみえる。
「うん、…と言いたいけど…実は…」
「別れたのか?」
正太は黙ってうなずいた。
「黙っててごめん」
「お前が謝ることじゃないだろ。何で別れたんだよ竜太と。場合によっちゃ俺があいつに話をつけてやってもいいぜ」
大山は指の関節をポキポキと鳴らした。
「やっ、止めてよぉ。これは僕達だけの問題なんだから。僕の愛が…足りなかっただけなんだ…」
「愛…か…」
そうつぶやくと、大山は正太の肩をぽんと叩いて気にするなと言った。
「忘れろよそんな事。理由はどうあれ竜太はもうお前を愛してないんだろ?それなら過去をひきずる必要なんかないじゃん。これからの中学生活を前向きに生きて行きゃいいさ」
「そりゃそうだけど…」
「何だよまだあいつに未練があるのかよ。よーし…それなら俺があいつのこと忘れさせてやる」
えっ?と正太が大山のほうを向いた瞬間、彼は正太の体に覆いかぶさっていた。そしてしばらく二人は抱きあった。大山の体温と鼓動が正太を優しく包み込む。初めは驚いていた正太だったが、やがて目を閉じて大山に身を委ねた。
体が離れた後、大山が真っ赤になって言った。
「おっ…俺はその…男が好きとかそう言うのじゃないけど…でも、なんか元気のないお前見てたらなんとかしてやらないとって思って…怒ったんなら謝るよ。ごめん」
正太はくすっ、と笑った。
「ありがとう大山君、おかげで元気が出てきたよ。淋しくなったらまた…してくれる?」
そう言うと正太は上目遣いで大山を見た。
「おっ、おい!二度目は絶対ねえぞ!そういう趣味じゃないからな俺は。勘弁してくれ」
首を何度も横に振りながら必死に弁解する大山を見て、かわいいな、と正太は思った。
「冗談だよ大山君。じょうだん」
それを聞くと、大山は立ち上がって学生ズボンの尻についた砂を払った。
「まったく…びっくりさせんじゃねえよ。じゃあ俺、家の手伝いがあるからさ、お前も一緒に帰るか?」
「ううん、僕はまだここにいるよ」
それから正太はぼーっと桜の花を見ていた。
* * *
長い時間が過ぎて、入学式の会場をあと片づけをしていた2・3年生も次々と家路についていった。そして辺りはすっかり静かになった。
正太は竜太のことを思い返していた。うれしかったこと、楽しかったこと、それから…別れた時のことを…。あふれ出る涙を堪えながら正太は鮮やかな桜の色を目に焼き付けていた。
「正ちゃん」
聞き覚えのある声がした。正太が振り返ると、そこにはセーラー服を着た明美が立っていた。
「お姉ちゃん…じゃなかった、木崎…先輩」
「やめてよ正ちゃん、そんな堅苦しい呼び方。二人の時はいつものまんまでいいわよ」
明美は微笑みかけた。
「じゃあ…お姉ちゃん、僕ね…竜太にフラレちゃったんだ。お姉ちゃんの言った通りだったよ。長続きしないって…」
正太の横に明美が座った。
「でもね正ちゃん、あなたのおかげで竜太はかなり変わったわよ。今までエッチのことしか頭になかったあの子があたしに聞いてきたの。『愛』って何だって。私びっくりしたわ。正ちゃんからいろんなことを教わったみたいね。今の竜太って前よりずっと優しい感じがするわ」
「優しい…」
「昔の竜太なんて手のつけられない程のやんちゃ坊主だったのよ。それはもう、私でも調教できなかった位だから」
明美は冗談ぽく笑い、正太の顔を覗き込んだ。目が合うと正太は恥ずかしくなり目線をそらした。
「竜太はね、私がセックスを教えたとき、すぐにクラスの女の子で試しちゃったのよ。それも何人も。幸い女の子達が家族とか先生に知らせなかったから良かったんだけど、竜太ったらその時のことを自慢げに私に話すの。私すっごく心が痛んだわ。だからあの子の興味を女の子からそらすために正ちゃんと…。本当にごめんね」
「じゃあ僕を調教したのは、初めから竜太と…させるために…」
「ううん、それは………私の趣味♥正ちゃんのことずっと前から好きだったんだもん」
「でも!お姉ちゃん好きな人がいるって…」
すると明美は突然笑い出した。
「ふふっ、あれはねぇ、嘘だったの。だって、正ちゃんと竜太すごく仲が良かったじゃない。もう私、うらやましくって。だから私も好きな人がいるなんて言っちゃったの」
正太は心の中の氷が解けていくのを感じた。僕はお姉ちゃんのことを誤解していたんだ、それが分かるとなぜか涙が止まらなかった。
「お姉ちゃん!僕…ずっと…寂しかった…だから…だから……」
明美の胸の中で正太はいつまでもいつまでも泣いていた。
* * *
その日の夜は、となり同士の田辺家と木崎家が、正太の進学と明美の進級を祝い、明美の家に集まって家族ぐるみでパーティーを開いていた。ささやかなパーティーながらも意外と盛り上がり、特に両家の父親は酒が入ってから大いに騒ぎまくり、遂には二人とも酔い潰れてしまった。
それを介抱しながら、それぞれの母親はパーティーの後片付けをしていた。そして、今晩の主役である正太と明美は、二階に上がった。
「なんだか懐かしい気がする」
明美の部屋に入って、正太はそう言った。半年前にここで竜太に犯されて以来、この部屋にはまったく来ていなかったのだ。
「あっ、この写真…」
正太は明美の机の上に目をやった。写真たての中には、去年の夏に正太の部屋で撮った、正太と明美とのツーショットの写真が入っていた。
「ああそれね。正ちゃんちのパパがカメラのフィルムが余ったからって撮ってくれたんだっけ。ずっとここに飾っておいたのよ」
その写真の中で明美は、座っている正太の後ろから顔を出している。それはまだ二人が無邪気にじゃれあっていた時の写真であった。そして、この数日後に正太は明美に初めての調教を受けたのだ。
その頃の記憶が正太の中に甦り、心の中で明美を慕う気持ちが一気に膨れ上がった。
「お姉ちゃん!またあの時みたいに…僕に…してよ!」
正太は明美に思い切り抱きついた。明美は正太のうなじに軽く口づけをした。そしてそのまま二人はベッドに倒れ込んだ。ひんやりと冷たい布団の上で、正太ははいていた長ズボンを脱がされた。
「もう半ズボンは卒業したの?」
「お姉ちゃんが好きなら…僕またはくよ」
正太のペニスはすでに明美の手の中で脈を打っていた。熱くたぎる情熱が彼女の手にじかに伝わってくる。明美は何も言わずにその手を上下に動かした。正太の眉間に小さなしわが寄る。
「ああっ…すごく…気持ちいいよぉ…」
何でもない、ただ手で擦っているだけなのに、正太は素直に感じていた。明美の愛をその体で感じ取っていた。
「正ちゃん…好き…私、正ちゃんのことが好きなの」
「僕もお姉ちゃんが好きだよぉ…あうっ!」
正太は明美の手の中で果てた。熱い白濁色の液が、明美の手を伝ってシーツをしっとりと濡らした。
この瞬間から正太は再び明美のペットとなった。しかし、彼はそのことを後悔してはいない。むしろ愛する明美のために全てを捧げたいとまで思っていた。ずっとずっと信じていたい。明美のことを。彼女と唇を交わしながら正太はそんなことを心に思った。
そう、いつまでも……。
その愛を歪んでいると人は言う
その愛を間違っていると人は言う
それならば…
正しい愛とは何なのか
何が正しい愛なのか
二人の愛が正しいかなんて
二人で決めればいいことだから
歪んだ愛の中で人は誰も
本当の愛を探し求める…
(新 歪んだ愛の形 完)
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最後のページです
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