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新 歪んだ愛の形[後編] [Page 7/12]
7 : 野獣の群れ
次の日の朝、いつものように正太が教室に入ると、黒板に大きな字でこう書かれていた。
『ホモ男 田辺正太』
そしてその周りには正太を中傷するような汚い言葉がたくさん書かれていた。さらに正太の机にもマジックで同じようなことがでかでかと書かれている。きっとクラスの男子達の仕業に違いない。その彼らは教室の隅のほうに固まって、正太を見ながらニヤニヤしている。
《どうしよう…》
余りにも早く正太の恐れていたことが起こってしまった。
正太は一言も喋らず、ただ黙々と黒板を消した。それを見ると今まで黙っていたクラスの男子達が一斉に騒ぎ出した。消しゴムを投げつけたり、罵声を浴びせかけたり…。そしてついにクラスのリーダー格の大山が正太に近づいてきた。
「おい正太、お前ホモなんだって?」
クラスに爆笑が起こった。正太にはそれが野獣達の下卑た叫び声に聞こえた。
「ち…違うよ…」
「おいみんな、違うってよ。それなら拷問にかけて吐かせてやろうぜ」
大山は男子達に合図を送ると、正太を抱き上げて教卓の上に座らせた。
「やめてよ大山君。降ろしてよぉ…」
正太は大山に腕をつかまれて身動きが取れなくなっていた。さっき大山に合図を送られた男子達が一斉に正太の所に駆け寄ると、彼の半ズボンを引っ張って無理矢理脱がせた。白いブリーフが野獣達の目の前にさらされる。
「やめてっ!みんなやめてよぉ…」
面白がって正太を押さえつけている男子の中には、昨日まで正太と仲が良かった友達までいた。正太は絶望の中に突き落とされた。
「おい、パンツも脱がせちゃおうぜ」
ある男子の言葉に、周りを取り囲んでいた皆が一斉に正太のブリーフを引き剥がした。小さく縮まった正太のペニスがあらわになる。
「ケッ、ちっちぇーっ!ポークビッツじゃんかよ」
大山がわざと大声で言った。女子達の黄色い悲鳴が教室を包み込む。
そして抵抗の出来ない正太は、そのまま教卓の上で股を開かされた。
「おいこら!チンポ立たせてみろよ。ほらあ!」
大山が正太のペニスを定規で弾きながら言った。その目は既にクラスメイトを見る目ではなく、まるで何か異質なものを見る様な差別的な目だった。
クラスの隅の方で女子達が小声で話をしながらこちらを見ている。噂を広めた張本人、桑野麻衣子も何食わぬ顔でその中に交じって、他の女子同様哀れみの視線を送っていた。
もしも子供達に何かを信用させたいのであれば、証拠などは一切いらない。噂、口づての噂が純真な心に強く焼き付き、それがたとえ嘘であっても真実だと思わせてしまえるのだ。そして場合によっては昨日までの友達までもがたちまち敵となってしまう。
「やめてよ…うううっ…」
うつむいた正太のペニスは、彼の意に反してクラスの皆の前でムクムクと立ち上がってきた。いつの間にか他のクラスの連中も見物に来ている。正太はくやし涙を流した。
「おい、こいつ本当に勃たせてやんの。バッカじゃねえの?」
大山の言葉に6年2組の教室はさらに騒がしくなった。その時、
「何やってんだお前ら!とっくにチャイムは鳴ってんだぞ」
と、担任の川田が怒鳴りながら教室に入ってきた。
《川田先生だ…助かった…》
正太は内心ほっとした。なぜなら川田はけっこう正太をひいきしてくれていたからだ。
川田は、下半身を真っ裸にされ、泣きべそをかきながら教卓の上に座っている正太を見て、一瞬驚いたような顔をした。
「どうした田辺、その格好は。誰かにやられたのか?」
「は…はい…あの…」
その言葉を大山が遮った。
「正太君が自分でやり出したんでーす」
それにつられて他の男子達も同調し始めた。正太の言い訳など聞かれるはずがない。
教師は生徒のいじめに気付かないとよく言われているが、気付かない振りをしている教師もいるのである。現に正太の担任、川田は、目の前で行なわれている行為がいじめである事にすぐ気づいた。しかし、ここでクラスの皆を叱って反感を買うよりは、そのまま気付かない振りをしていた方がいいだろう。わざわざ波風を立てることもない。それが勇気の無い教師の出した一つの結論であった。
「おい正太。その汚いのを早くしまえ。」
川田は正太の股間を指さして冷ややかに言った。その言葉にクラスの子供達は一斉に笑い出した。正太は目の前が真っ暗になった。最後の望みを断ち切られ、奈落の底に落ちて行くような感覚に正太は耐えられなくなった。
《川田先生まで…どうして…》
正太は床に投げ捨てられたブリーフと半ズボンを急いではくと、何も言わずに教室を飛び出した。
「何なんだあいつは。もうほっといて授業始めるぞ」
と言うと、川田は何事も無かったかのように授業を開始した。
正太は誰もいない体育館の裏まで行くと、そこにしゃがみ込んで泣き出した。信頼していた友達や先生に裏切られたことは、彼にとってかなりのショックだった。
《もう明日から学校に行けないよぉ…》
正太はしゃがみ込んだまま、いつまでもいつまでも泣いていた。
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