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新 歪んだ愛の形[中編] [Page 6/8]
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6 : 初めてのキッス
誰もいない放課後の6年2組の教室。その窓際の席に正太と麻衣子が向かい合って座っている。正太はずっと下を向いて麻衣子の顔を見ようとはしなかった。
「今日の正太君何かおかしかったからずっと後をつけてたの。そうしたら…正太君あんなエッチな事してるんだもん。あたしびっくりしちゃった。一緒にしてた子が竜太君っていう子なのね?」
正太は何も言わずにうなずいた。
「正太君ってば男の子が好きなの?」
「……違うよ…」
「じゃあ、あの竜太君は何なのよ」
「………」
正太は今にも泣き出しそうな顔をしている。
「大丈夫。絶対誰にも言わないから」
「…好きなのは…竜太だけなんだよぉ…」
遂に正太の瞳に涙が溢れた。それは、竜太との大切な秘密を他人に知られてしまった悲しみからだった。
「泣いちゃったの?何か悪い事しちゃったな」
麻衣子は、ばつの悪そうな顔をして、上目遣いでしばらく正太を見ていたが、いきなり顔を近づけると正太の頬に流れる涙を舐め始めた。
「あっ…そんな…汚いよ…」
「えへっ、やっぱりしょっぱいや。…ごめんね、正太君」
しばらく舐めているうちに、麻衣子の舌が正太の唇に触れた。そして二人はそのまま唇を重ね合わせた。
正太にとってはこれが異性とのファーストキスだった。それはほんの2・3秒にすぎなかったが、正太にはものすごく長い時間に感じられた。
少しの沈黙の後、麻衣子が口を開いた。
「ねえ、あたし正太君に頼みたい事があるんだけど…」
「頼みたいこと?何?」
「あのね…あたしも…まぜてほしいの」
正太は目を丸くした。
「な…何言ってんの?冗談でしょ?」
「あたしは本気よ。まぜてくれなきゃ竜太君のことみんなに喋っちゃうから」
「そっ…そんなぁ…」
「人の噂って広がるの早いのよ」
麻衣子の顔に不敵な笑みが浮かんだ。正太はしばらく黙っていたが、
「わ…分かったよ」
と呟くように言ってうなだれた。
「わあっ、嬉しい。じゃあ明日の放課後にあの場所で。ちゃんと竜太君にも言っといてね」
「明日?そんな…」
「つべこべ言わないの!どうせあたしには逆らえないんだから。じゃあね」
麻衣子そう言うと教室を出ていった。
* * *
その日の晩、正太は竜太に電話でそのことを打ち明けた。
「おい、何だよそれ?その女が俺達と…やるって言うのかよ。冗談じゃねえぜ。俺はお前だけとやりたいんだよ」
「僕だってそうさ。でも…みんなに知られたくないでしょ?」
「そりゃそうだけどさぁ…まあしょうがねえ。しばらくすりゃ飽きるだろ」
「そうだといいんだけど…」
正太の声は不安に満ちていた。
「あんまり心配すんなよ。お前は俺のこと好きなんだろ?俺もお前のことが好きなんだからさ。それでいいじゃねえか」
その言葉に正太は少し安心した。
「じゃあな、あんまし長電話するとかあちゃんに怒られるからよ」
「うん、それじゃまた明日」
正太は受話器を置くと大きな溜め息をついた。とても嫌な予感がする。明日が来なければいい、正太はそんなことを思っていた。
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