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Cook a doodle doo [Page 1/4]
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その日、4年生の治彦は、クラブ活動ですっかり帰りが遅くなってしまっていた。
彼の所属する私立敬鑑小学校ブラスバンド部は、近々行われる吹奏楽コンクール西関東地区大会に向けて、毎日練習に励んでいた。
体が小さく、トランペットを吹いている治彦は、今年はまだ出場メンバーではないが、顧問の指導した練習法に従い、少しずつではあるが音が響くようになってきていた。
とにかく、コンクールはもう目の前だ。そのため、この日も部員一丸となって、辺りが暗くなるまで練習をしていたのだ。
<早く帰んないとママに叱られちゃう>
治彦の家はとても躾に厳しく、門限も6時までと定められていた。しかも、どんな理由があろうともこれを破ることは許されない。今の時間は5時36分。間に合うか間に合わないかというギリギリの時間だ。
治彦は急いで駅に行き、首から下げたパスケースの中の定期券を駅員に見せると、丁度ホームに滑り込んできたオレンジ色の電車に急いで駆け込んだ。
そして、そこから2駅離れた、治彦の住む街の駅にたどり着いた時、時計の針は5時50分を指していた。
<あの道を通れば6時に間に合う!>
治彦は人通りの全く無い、狭い路地へと入っていった。そこは普段の通学路を通るよりも、はるかに早く家に帰れる道なのである。
薄暗い路地を一気に駆け抜けると、何もない広場に出る。その広場の端の一辺は治彦の隣家の生け垣と接していて、体の小さい治彦はその生け垣の隙間から易々と中に入ることができるのだ。
そして、隣家の庭を抜ければ、目指す自宅はすぐ目の前だ。
彼は生け垣を目の前にして、いつものようにそこを抜けようと、ランドセルを背中から下ろしてその場にしゃがみ込んだ。しかしその時、背後に複数の黒い影が迫ってきた。
『HEY! YOU!』
「わあっ!ごっ、ごめんなさい。もうしませんから」
突然の声に焦った治彦は、その声が隣家の住人のものだと思い込み、その場で体を丸め、頭を抱えた状態で必死に謝った。すると、治彦の半ズボンの吊りバンドが思いきり引っ張られ、彼の小さな体が一瞬宙に浮いた。
驚いた治彦が慌てて顔を後ろに向けると、そこには彼を捕まえている男を含めて、三人の外国人がいた。黒人一人と白人が二人。その白人の片方、治彦を捕まえている男はスキンヘッドで、もう一人の男は短くカットされたブロンドの髪をしていた。
「たっ・・・助け・・・」
大声で叫ぼうとしたその時、ブロンド男の左手が治彦の首を締めつけた。そして、さらに男はポケットからアーミーナイフを取り出すと、ひとしきり少年の目の前でちらつかせた後、半ズボンの吊りバンドを二本とも次々に断ち切ってしまった。
<あっ、ママに怒られる>
治彦が思う間もなく、ブロンド男のナイフは治彦の着ている半袖のワイシャツをズタズタに切り裂いていった。恐怖で引きつった治彦の喉は、声を出すことができなかった。
『・・・・・・・・、・・・・・・・・』
三人の外国人達は、野太い声で何かぼそぼそと話していたが、やがて話がまとまったらしく、治彦はブロンド男に軽々と抱えられると、広場の外に止めてあった乗用車に無理矢理押し込まれた。そしてその乗用車は、怯える少年と三人の外国人の男を乗せて何処かへと走り去っていった。
生け垣の前には治彦のランドセルと切り刻まれた布切れ、そして紐の切れたパスケースが取り残された。
空では『基地』から離陸した大型の輸送機が、爆音を轟かせながら夜の闇へと消えていった。
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