敗戦の夏

「ぎぶみーちょこれーと!」
今日も占領軍のジープを子供達が追いかけている。
そんな子供たちの中に、戦争中に空襲で母を亡くした勝男少年もいた。
戦争で父も母も失った勝男は、それでも憎き“鬼畜米英”の乗るジープを追いかけている。
親戚の家に引き取られ、満足に食事もさせてもらえない程の肩身の狭い生活を強いられている彼にとっては、ジープからばら撒かれる菓子であっても空腹を満たすための大事な食料なのだ。
「ぎぶみー!ぎぶみー!」
他の子供達が次々と追いかけるのをあきらめる中、勝男はいつまでもジープを追いかけていた。
そんな少年に気付いたジープは、ひと気のない空き地に入って停車した。
降りてきた二人の兵士のうちの一人が、ジープの後ろで息を切らしている少年に向かってポケットから出したこぶしを差し出し、それを彼の目の前で開いた。
手の平に乗っていたものは、チョコレートの丸められた包み紙のみだった・・・

 


1997年の夏コミの新刊、「SPERM」に使用したイラストです。
イラストは、米兵の記念撮影という設定なのでセピア調になっています。
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